人工水晶は1905年にイタリアの鉱物学者ジョージ・スペチア氏が人工水晶育成(水熱合成法)に成功しました。種を結晶育成させる装置、現在のオートクレーブ(円筒状の圧力容器)の原形を開発しました。
1930年頃にはドイツ、アメリカ、イギリス、ロシア等でも盛んに人工水晶合成の研究が進められました。当時通信機器に使われる水晶発振子はブラジル産の天然水晶に依存していましたが、各国の思惑や戦争、通信の発達により材料不足が懸念されていたようです。日本では1953年に山梨大学で日本初の人工水晶合成の研究が開始され、現在世界第1位の水晶振動子産業の基礎が築かれました。
代表的形態の人工水晶3種類
山梨大学公開講座で育成した人工水晶
人工水晶は用途に応じた様々な軸方向、形に造られます
☆山梨大学公開講座(2009年)-「クリスタル体験講座」の人工水晶育成についてご紹介します。
山梨大学大学院医学工学総合研究部付属 クリスタル科学研究センター
講師 |
中川清和教授(センター長) |
田中功教授 木野村暢一教授 熊田伸弘教授 |
准教授、助教授の先生方 |
高橋泰先生(山梨県立宝石学校) |
水晶など結晶鉱物が結晶を始める時に最初に出来るものが核(種)です。
この核の大小や軸の方向(双晶含)、螺旋転位(右巻き左巻き)などが結晶
性質の起因となり成長していきます。
水晶の核は高温で出来るため、観察実験は常温で可能な塩化アンモニウ
ム水溶液を使って行っています。
←塩化アンモニウム(NH4Cl)
成長に必要な原料ラスカを籠の中に入れます。
ラスカとはポルトガル語で「かけら」を意味します。
結晶育成には原料を溶解しますので屑水晶が適して
います。以前はブラジル産の天然水晶(ラスカ)を使用
していましたが、近年は工業的に不良品(結晶欠陥)
の人工水晶(同SiO2)も再利用しています。
この合成育成でも人工水晶のラスカを使用しています。
←左写真
種と原料をセットした容器をオート
クレーブ内へ挿入します。
この円筒状の圧力容器は日本製
鋼所室蘭製作所が砲身製造の
技術を使い製作しています。
右写真→
溶媒として水酸化ナトリウム水溶液
(NaOH aq)を注入します。
右写真→
2000気圧の高圧に耐えれるようにしっかりと蓋を
密閉します。写真の四角の鉄枠は蓋を閉めるた
めだけの設備で教室の中央に配置してあります。
★本講座の中では1番の重労働と重要作業★
↓下写真のように最後は6人掛かりで蓋を閉めます↓
・・・・・蓋を開ける時も6人掛かりです・・・・・
上部は360℃下部は420℃に温度
維持設定しています。
温度の高い下部ではラスカが溶解し
低い上部では過飽和状態になり種
水晶表面に析出し水晶の成長(結
晶)が始まります。
1日に1oの成長予定で14日後の
取り出し(釜揚げ)です。
今回の講座では2基の装置を使い8個の合成水晶の育成を試みました。 残念ながら5個口の1基は蓋の閉め方が悪かったのか種の平面にわずかに成長線が見られる程度でしたが、3個口の1基はしっかりと成長していました。左写真は種と比較したものです。
サイズ 24.8mm×19.7mm×7mm 約3.7g
人工水晶は工業製品用(デバイス)に作られ水晶振動子など私達の生活にかかせない時計や携帯電話、パソコンなどに使われ必要不可欠で未だ代替品のない材料です。
当初は原料(ラスカ)として天然水晶も使われていましたが、現在は種も原料も人口水晶を使った製造もしているようです(工業製品としてより精度の高い人口水晶製造)
合成水晶も天然水晶と同じSiO2という化学組成をもつ物質で硬度や比重、屈折率も同数値を示します。
天然・合成の鑑別として以前は天然特有のチューブ状インクルージョンや人工特有のパン屑状インクルージョン等を顕微鏡で観察していましたが、現在ではフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を使い天然・合成判別の鑑別を行っています。これは赤外光の各波長の強度分布を調べ、データを基に波長のピークを比較する方法です。原因としては成長過程のガス(水溶液)等の違いが影響されているようです。
下表はFT-IRによる標準的な天然水晶と合成水晶の違いを示すグラフです。
このように鑑別に於いて天然と合成は区別され、鉱物名欄には「天然ロッククリスタル」「合成ロッククリスタル」とそれぞれ違う表記になります。一般に宝飾業界で合成石はイミテーション(偽物)として取引され天然石とはまったく異なる取り扱いになります。
資料提供 日独宝石研究所
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直径57ミリ丸玉 |
ブレスレット各種(天然石との混合) |
細工彫刻品 観音像 |
念珠 |
工業製品用に作られた人工水晶のうち不良品(結晶欠陥)の為に検品落ちした安価な物が、国内外の一部の業者により製品に作られ人工水晶と明記せずに本水晶等の名で販売されています。
初めは10ミリ程度の厚みでしたが技術や設備(オートクレーブ)の進歩により今では60cmの厚みまで製造(ロシア)可能になっています。
人工水晶はブレスレットなどの小玉から直径15cmの丸玉、細工彫刻品など様々な加工品が存在しています。
10ミリ丸玉40個のネックレスのうち1個がガラスで3個が人工水晶、36個が天然というミックスの状態の製品も
経験があります。
販売責任において天然、人工、研磨加工地などの説明が消費者保護の観点からも必要不可欠です。